[賢人インタビュー]
ゲスト:森 千里(千葉大学 大学院医学研究院 環境生命医学 教授・千葉大学 予防医学センター センター長)

健康と老化防止に大きな役割を果たすとして今注目されているのが、腸内細菌です。2018年11月17日、社団法人日本アンチエイジングフード協会主催で開催された「腸内細菌講座」で、千葉大学大学院環境生命医学教授 森千里氏、同協会理事長の白澤卓二氏が最新の研究成果を紹介しました。

健康になるための腸内細菌のバランスとは

森教授による、腸内細菌の働きに影響を与える要因についての解説

腸内細菌に最も関係あるのが食事

森:人間の腸内には、いろいろな種類の細菌がいます。人間の体はだいたい6兆個の細胞でできているといわれていますが、腸内細菌はその10倍から100倍。さまざまな種類の細菌が叢(くさむら)のようにして腸内にいるので「腸内細菌叢(そう)」(腸内フローラ)と呼びます。

腸内細菌はアトピー、アレルギー、発がんなど、人の健康状態にも大きく影響します。腸内細菌は食べたものを栄養にして、増えるのですが、生きているのですから当然、老廃物を出す。その老廃物が腸の血管から吸収され、体内に広がっていく。それで、全身のさまざまなところに影響が出ます。

腸内細菌の変動要因は、一つは遺伝的要因。でも、最も関係があるのが食事です。乳児においては母乳で育てるか人工乳で育てるかで違ってきます。あとは年齢。年齢が違えば、当然食べるものも生活環境も変わってきます。まず、「食べ物が腸内細菌には大きく影響する」ということが、一つのキーワードになります。

5年前までは、母体の中は無菌状態なので、子供には腸内細菌はいないとされていました。しかし、最近は、経膣分娩で生まれた子供はお母さんの膣内の細菌を飲み込んで、母親と同じような腸内細菌がいるということがわかっています。つまり、母体の状況によって、子供の状態が決まってくるというわけです。

一つの例を挙げます。マウス(実験用ネズミ)の実験なのですが、肥満マウスダイエット食を食べさせたら、バクテロイデスという腸内細菌叢が増えて、ファーミキューテスという腸内細菌叢が減ってきます。このファーミキューテスというのが、糖尿病と関係があることがわかってきました。逆にいえば、腸内細菌の状態を変えることで、糖尿病の遺伝の発現をおさえることができる。それは、食事で治すことができます。

身体のためには腸内細菌の多様性が重要

森:腸内細菌の主な働きは、身体に入ってきたものを分解して、エネルギーや栄養を補給すること。そして、なんでもかんでも体内に通さないよう、腸内バリアという機能で調整する。あとは免疫系の調節もします。時には、悪いものを食べると下痢をしたり、炎症を起こしたりということもあります。高脂質の食事や抗生物質の摂取、加齢などによって腸内細菌のバランスが悪くなると、アレルギーや、メタボリックシンドロームや、神経疾患や、咳が出ると言ったさまざまなトラブルが起きます。

 

一番問題なのは、化学物質や抗生物質によって、特定の種類の腸内細菌が死んでしまうことです。腸内細菌にとって一番大事なのは多様性。たくさんの種類がまじりあっていることが大事です。

 

母体の腸内細菌の多様性が子供にどのような影響を与えるのかを、複数の指標で調べました。すると、男児の場合、母体の腸内細菌の多様性が上がるほど、頭囲が大きくなるということがわかりました。母体を助けるために抗生剤を飲ませたようなケースでは、多様性がなくなり、頭囲が小さくなってしまったり、出生時体重が少な目になるということも分かっています。

 

多様性が必要だということは分かっているのですが、じゃあどの種類の腸内細菌が何に影響しているのか、ということは、まだはっきりとはわかっていません、だから、「これを飲むと何に効きます」というのは、現時点では「効果が無い」とは言い切れないものの、少し怪しいことになります。

化学物質の影響は1世代にとどまらない

森:私たちは、さまざまな化学物質を身体の中に取り込んでいます。これも、腸内細菌に影響を与えます。2018年の今、大きなトピックになっているのが、産後うつへの影響です。妊娠中に抗生剤で腸内細菌を殺すと、産後うつになって、育児ができないというケースがどうやら増えているようだということがわかってきました。

 

影響は1世代にとどまりません。というのも、動物実験で「マルチジェネレーション」といって、複数の世代にわたって飲み続けると、より症状が出やすくなることが分かってきています。ヒトの体内での感応性がどんどん変わっていくので、これは注意する必要があります。

 

他にも、PCBやダイオキシンといった化学物質で、DNA、遺伝子の設計図の読み取りのメカニズムが狂うということも分かってきました。こうした化学物質の体内濃度を下げるには、三つ葉やホウレンソウなどの緑黄色野菜、焼き魚、フルーツなどを食べるとよいです。あとは、調理方法によっても変わって、ボイルしたりグリルするのが良いことが分かっています。

 

まとめると、腸内細菌バランスを崩す原因になるのは、高脂肪食、抗生物質、加齢。高脂肪食や抗生物質は取らないよう気を付けることができますが、加齢は防げません。でも、緑黄色野菜と、魚や肉を食べるなら焼いたものを取り入れて、バランスの良い食事をとることが大事です。

(取材・文:板垣朝子 写真撮影:宮地たか子)

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